相続財産に債務(借金)を含む場合【遺言書の作成】

以前、相続財産についてプラスの財産よりマイナスの財産(借金)が多い場合の相続について解説しました。今回は、プラスの財産の方が多いが、マイナスの財産もある場合の相続と遺言の残し方について考えてみたいと思います。

 

昭和34年の判例

民法のルールでは、相続人は相続開始の時から被相続人の一身に専属したものを除いて、一切の権利義務を承継するとされています。

昭和34年の判例では、「被相続人の金銭債務その他の可分債務については、法律上当然分割され、各共同相続人がその相続分に応じてこれを承継する」と判示されました。

 

平成21年の判例

上記の判例において問題となってくるのは被相続人が遺言によって特定の相続人に債務を承継しようとした場合です。

この問題について平成21年の判例では「債務の承継について、相続人間においては遺言に従っての処理は可能だが、相続債権者に対してはその効力が及ばない」と判示しました。つまり、遺言によって相続人間では有効としても債権者には通用しないという事です。債権者に対しては、各相続人が法定相続分の割合に対する支払い義務が発生します。また、判例は「相続債権者の方から相続債務についての相続分の指定の効力を承認し、各相続人に対し、指定相続分に応じた相続債務の履行を請求することは妨げられない」としました。

また、判例では相続人間についての求償権にまで言及しているので、可分債務の承継について遺言に残しておくことは、相続人間では有効と解されます。よって債務の承継についても遺言に残しておくべきです。

例えば、住宅ローンなどで抵当権を設定された不動産を特定の相続人に相続させる場合は、その不動産を相続する相続人に抵当権の目的である債務を承継させることが合理的であり、当事者においても納得すると思います。

 

遺言書作成時には債務額を把握しておくことも大切です。遺言によって相続財産が少なくなった相続人にも法定相続分の債務が発生してしまいます。相続人間のトラブルを防ぐためにも、遺言書で対策しておきましょう。