相続法改正 持戻し免除の意思表示の推定

平成30年7月13日に民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律が公布されました。
その中に配偶者の居住権を保護するための方策として「持戻し免除の意思常時の推定規定」が新設されました。前々回、前回に引き続き、こちらも配偶者保護のために新設された規定になります。

 

持戻し免除とは

特別受益
被相続人から贈与を受けた相続人(特別受益者)がある場合には、相続開始の時の財産にその贈与の価額を加えたものを相続財産とみなし、それを基礎として算出した相続分から、受益額を控除した残額が、その特別受益者の相続分となる(民法903条1項)。

つまり、被相続人から相続人に対して生前に贈与した分は、特別贈与として相続財産に含むということです。よって、生前に贈与を受けた相続人は遺産分割時に自身の取分が減ってしまいます(既にその分は貰っているから)。

ただし、この特別受益は絶対的なものではありません。

被相続人が前二項の規定と異なった意思表示をしたときは、その意思表示は、遺留分に関する規定に違反しない範囲内で、その効力を有する(民法903条3項)。

という条文があり、これは「持戻し免除の意思表示」と呼ばれています。被相続人が遺言で「この生前贈与等については特別受益としない」と意思表示しておけば、相続財産とは別の扱いになるため、受贈者の相続分が増えます。

「持戻し免除の意思常時の推定規定」とは、一定の要件を満たした場合に、被相続人から持戻し免除の意思表示があったものとしてしまおう、と言う規定なのです。

 

「推定」とは

横道にそれますが、「推定」という言葉について説明しておきます。推定とは、事実の存在等が不明確な場合に、一応明確なものとして定めて法律効果を生じさせることをいいます。はっきりしないけど「こうであろう」という事にしてしまうのです。「一応」結論を出している状態なので、事実と違う事が証明できれば覆る可能性があります。

似たような言葉で「みなす」があります。こちらは推定よりも強力で、一定の法律関係についてある事柄と他の事柄を同視することです。「胎児は、相続については、既に生まれたものとみなす(民法886条)」という条文がありますが、「相続という枠のなか(一定の法律関係)」において、「胎児(ある事柄)」イコール「既に生まれた(他の事柄)」という事です。よって胎児も遺産分割に参加する権利があるということです。

 

持戻し免除の意思表示が推定されるための要件

ではどのような時に持戻し免除の意思表示が推定されるのでしょうか。
新法903条4項の規定は以下の通りです

婚姻期間が20年以上の夫婦の一方である被相続人が他の一方に対し、その居住の用に供する建物又はその敷地について遺贈又は贈与をしたときは、当該被相続人は、その遺贈又は贈与について第1項の規定を適用しない旨の意思を表示したものと推定する。

まとめると

・婚姻期間が20年以上である夫婦間

・居住用不動産を目的とする遺贈または贈与

上記の場合に意思表示があったものと推定するという事になります。


※出所「法務省ホームページ」

持戻し免除の意思表示は配偶者以外の相続人に対しての行為であっても可能です。その場合は遺言書の作成をおすすめいたします。